2022年度日本地方自治研究学会学会賞審査結果

受賞作品

〈著書部門〉

1.受賞者 有馬晋作(宮崎公立大学学長)

 

2.受賞作 『暴走するポピュリズム 日本と世界の政治危機』筑摩書房、20218月刊。

 

3.受賞理由

本書は、暴走するポピュリズムという些か一般書のようなタイトルであるが、内容はポピュリズムを実践で捉えて論じた学術書である。ポピュリズムはいつの時代にも経験してきた大衆迎合的な政治姿勢であり、わが国でもこれまで幾度かポピュリズム政治に遭遇しその問題がマスコミ等で論じられてきたが、本書はポピュリズムを政治学から定義し、海外と日本のポピュリズムの事例をサーベイした上で、これまでの主要なポピュリズム政治について分析を加え、リベラル・デモクラシー擁護の観点からポピュリズム政治の危険性や対処法を論じている。ここではポピュリズム政治を日本の地方自治体の事例を取り上げて論じていることから、本学会への貢献も見出すことができる。

世界で対立が深まる権威主義と自由主義の政治体制の中で、わが国でも再び起きるであろうポピュリズムに対してどう対応するのか。現実問題としても大いに関心があり、時宜を得た学術書としてまとめられ、学会賞に値すると評価した。

 

〈論文部門〉

1.受賞者 長谷川幸一(新潟大学大学院現代社会文化研究科博士後期課程)

 

2.受賞作 「地方公共団体における個人情報保護の共通ルールの課題」

      『地方自治研究』Vol.36,No.2202112

 

3.受賞理由

本論文は、令和3年に制定されたいわゆるデジタル社会形成整備法に関連して、全地方自治体に適用されることになった個人情報保護に関する共通ルールを巡って、法律に定めのない事実上の事務処理をともなう住民の税務情報、栄典に関わる個人情報、個人の医療関係情報などの事例について、個人情報の取り扱いと守秘義務の関係から課題を抽出し、必要な法的整備をまとめている。ここで論じている地方自治体の個人情報保護の取り扱いについては、個人情報の利用範囲や自治体職員の管理責任などに関して共通ルールは課題を抱えているものの法整備の意義は認め、同時に地方自治体での共通ルールの解釈・運用についても触れ興味深いが具体な言及はなされていない。

今日では公的機関においても個人情報の扱いは厳しい管理が求められ、その利用についても厳格さが必須となっている。本論文はこうした重要な問題について具体事例をもとに法規定の欠陥と運用方途を明確に論じ、今後の若干の対応についてまとめた興味深い論文である。以上により、学会賞に値すると評価した。