著作部門

1.受 賞 者    樋口浩一氏(神戸市勤労会館長、関西大学講師)

2.受賞著書    『自治体間における広域連携の研究―大阪湾フェニックス事業の成立継続要因』公人の友社、20193月刊。

3.受賞理由

本書は、大阪湾フェニックス事業を題材に自治体間の広域連携の可能性を論じた労作である。自治体間の広域連携の制度論的の考察では、戦前の制度にまでさかのぼって丁寧な整理を行い、市町村合併を含めた地方自治制度の変遷を簡潔にまとめており、現在の広域連携の課題を考える際の制度的な背景が分かりやすく示されている。さらに事例分析では、組織論的な要素も加味してアクター分析を行っており、東京湾と大阪湾のフェニックス計画の背景・経緯について、内部者ならではの貴重な知見も織り交ぜて、興味深い議論が展開されている。特に国主導のハイラーキー組織から、信頼と互酬性に支えられたネットワーク組織に大阪湾の機構が変質していく経緯の描写は秀逸である。本書は数少ないフェニックス事業研究の嚆矢ともいうべき著作であり、資料的な価値も高い。よって学会賞に値すると評価した。

 

 

論文部門

1.受 賞 者 野田 遊氏(同志社大学教授)

2.受賞論文 「自治体のシェアードサービスの可能性――米国の事例を手がかりにして」『地方自治研究』Vol.33No.2201811月。

3.受賞理由

 本論文は、自治体間連携の1つでわが国では包括的民間委託として取組まれているシェアードサービス(SS)について、米国の事例紹介では多様な実践をインタビュー等も行い整理し、わが国での可能性をまとめた労作である。米国の事例紹介では非常に興味深い内容であり、わが国での広域連携や民間委託といった今後の展開に有益な示唆となる論考である。特に複数の自治体が共同の事務をまとめて特定の民間事業者に委託することや自治体内部の各部門共通業務の一括処理機構を設けて民間に包括的に委託すること等を意味する業務一括民間委託というSSの類型を紹介しながら、日本のSSについてサービスの生産とガバナンスという指標によって整理している点は極めて新鮮である。なお、評価に際し、米国とわが国との相違を踏まえたより具体的な分析の必要性について指摘もあったが、この分野の研究としては力作であり、学会賞に値すると評価した。