著作部門

 

1.受 賞 者  圓生 和之(名古屋商科大学)

 

2.受賞著作  『公務員人事の経済分析―賃金編―』

         (三恵社、20178月刊行)

 

3.受賞理由

「公務部門の賃金はどうあるべきか。どのように決定されるべきであろうか」(本書1頁)。本書の問題意識は、著者によるこの冒頭の一文に尽きるといっていいだろう。日本における公務員の賃金は、民間部門との比較によって決定される「民間準拠」方式をとっている。法制度上確立されたこの仕組みによって決定されているにもかかわらず、現実には公務員給与が高いとの批判がつねに存在している。本書では、客観データに基づいた公務部門の賃金水準の実態を明らかにし、今後の方向性について検討を行った成果である。

本書は大きく4つのパートで構成されている。第1部は、公務員の賃金水準に関する分析が行われている。公務部門と民間部門の賃金水準格差に関して客観データを用いて計量的に推計し、公務部門の賃金水準の実態を検証している。第2部では、公務部門の賃金構造の分析が行われている。実際には、公務部門の昇進構造、職階間・職階内の賃金構造、そして生涯稼得賃金の分析が行われた。第3部は、日本における賃金に関して、明治維新から今日までの変遷を点検している。とりわけ、民間部門に準拠する賃金決定の萌芽が見え始めた1920年に焦点を当てた分析が行われた。第4部では、公的部門の賃金の国際比較がテーマとなっている。海外諸国の公務部門賃金決定の考え方について類型化し、こうしたなかでの日本における賃金決定方式の位置づけを行っている。とりわけ、かかる領域において先駆的役割を果たしてきたアメリカの状況に焦点を当て検討を行っている。

公務員の人事、なかんずく賃金を正面から取り上げ、経済分析を行っている本書は、おそらく単著としては、先行業績そのものがさほど多くないために、行政学ないし労働法学分野の論稿、あるいは旧労働省ないし現厚生労働省発行の資料等を読み解く必要があったのではないかと思われるところである。第1部から第4部までのそれぞれ末尾に参考文献として掲げられているものを一瞥してもそのことが理解できる。

 以上のような形式面から見ても、本書は、極めて周到な関連論稿の渉猟と収集を行い、その分析並びに考察を加えていることが分かるが、経済学ないし労働経済学分野ではあくまでも公務員の「賃金」と呼ぶべきものが、我が国においては少なくとも現行公務員制度上は、「俸禄」に端を発し、「俸給」という呼称を経て、「給与その他」という表現が行われていること等に関する論述が何れかの章節に明記されていることが望ましかった。それというのも、公務員制度及びその給与体系を分析ないし検証することは、実質面からわが国の公務員給与制度の変遷それ自体を辿ることで、公務員の本質が如何なる変質を来たしているかも知れないという可能性についても照射されることが期待されるからである。

感情的な批判の対象となりがちな公務員の賃金について、系統だった分析がなされたことは高く評価したいが、賃金政策に対する新たな視座あるいは新たな考察という点では、いささかの課題も残っていると感じる。また、アプローチの視点が広範であるだけに、特に歴史分析、国際比較の内容が浅いといった懸念は拭えない面もある。

こうした課題はあるものの、分析の狙い、既往研究の渉猟、データの処理、その解釈は手堅く、日本地方自治研究学会賞(著作部門)にふさわしいと判断した。今後はさらに、第1部から第4部にわたる通貫的な「未来の公務員像」とでもいうべき新たな著作の公表が待たれるところである。

 

 

 

論文部門

 

受賞作なし。