論文部門

 

  1.受賞者  青 木 勝 一(兵庫県立大学大学院博士後記課程/兵庫県防災企画課)

 

  2.受賞論文 「広域的都市連携による地域政策―関西広域連合におけるガバナンス・メカニズムを中心に―」

(日本地方自治研究学会誌『地方自治研究』Vol.30  No.120159月)

  3.受賞理由

本論文の目的は、地域政策の広域化について、都市間連携という視点に基づき、日本初の本格的な都道府県連携の取組である関西広域連合を事例に取り上げ、府県レベルの都市間連携の現状及び課題を考察し、都市間連携の将来像を検討することにある。

 企業が革新的な事業活動を行うため特定の地域・都市に集積し、特定の経済活動も稠密地に集まる傾向が顕著となった現在、集積の進んだ都市同士が連携し、都市地域の広域化を促進することにより、様々なメリットが得られ、都市地域の競争力も広域的に高まる。地域の広域化に伴って都市間連携の構造は「多極化(polycentricity)」へと変化しており、「参加と連携」を通じた都市間連携への参画主体の多様化していることから、プロジェクト・マネジメントのリスク軽減には「コントラクト方式」が有効となっている。

 こうした点を踏まえ、本論文では、多極的(ポリセントリック)地域構造下における都市間連携の事例として関西広域連合を取り上げ、広域的都市間連携の現状と課題を考察している。ここでは、関西広域連合を都市間連携の類型化モデルから考察し、さらにその事業運営やガバナンスに関する課題について論述した成果である。

本論文では、まず、都市間連携の促進手段として関西広域連合を位置付けた場合の特徴を、Docherty et al2004の都市間連携の類型化に沿って、「組織構造」「意思決定」「コミュニケーション」の観点から整理している。次に、関西広域連合の課題について、予算及びガバナンスの面から分析する。予算に関しては、構成団体の負担金が少額なために予算総額も少なくなっており、府県の共通事務を実施する実効性に乏しいことに加え府県の実施事業と重複した事業も存在している。ガバナンス面では、広域連合委員会の事前調整に際しての各府県企画担当課の経由による事務の非効率化、予算編成時の各分野担当府県による査定実施により予算査定の考え方・方法の不統一が生じている。さらに、国出先機関の地方移管が政権交代によって頓挫したことは、ネガティブ・ロックインの除去が制度の保有主体(国など)の動向に左右されるという現実を明らかにし、また、非加盟団体(奈良県)の存在がフリーライドを引き起こしていることも指摘している。

 こうした検討の成果として、本論文では以下のような日本型都市間連携構築に向けた具体的な提案を行っている。

(1) 府県の共通事務を連合に移管するという「資源共有化の徹底」を図るべきである。

(2) 意思決定について、合議制原則を維持しつつ、その迅速化のため、委員の意見が割れた場合の多数決制の導入し、連合長に裁定を行う権限を付与しリーダーシップを強化すべきである。

(3) 広域連合の運営を円滑化・効率化するため、各府県の企画担当課を経由せず、連合本部事務局が直接各分野事務局と協議・調整を行う体制へ移行する。さらに、広域連合の統一的視点から予算編成を行うため、連合本部事務局が予算査定権限を持つべきである。

(4) 広域連合外の主体との関係について、予算額や関係者数などの外形基準に基づき、基準を満たしたプロジェクトのコントラクト化を進める必要がある。

(5) 府県のフリーライダー化を防止するため、一定の地理的範囲内における加盟団体の漏れをなくす必要がある。

地域の広域化の手法には道州制もあるが、制度変更に係るコストや関西広域連合が都市間の競争状態を維持しているといった点を考慮すると、上記の改善策の実施により広域連合の実効性を高めることが先決であり、広域連合を都市間連携の「現実的な解」とすることが妥当との指摘を行っている。

 本論文の貢献は以下にある。少子高齢化の急進下、わが国においても都市間連携・広域連携にその関心が急速に拡大している。都市機能が複雑化するなかで、単一都市では十分な行政政策・施策を発揮できない。それが、産業振興領域においても同様である。広域的都市連合による政策実現は、かかる課題への対応として各方面で試みられているところである。ただ、実態としては未だ形式的・萌芽的段階にあることから、法定広域自治体として日本で初めて設置された関西広域連合の状況を先駆的に分析したことは評価に値する。第二に、本論文は予算やガバナンスといった側面から、関西広域連合の現況と課題を具体的事例をあげながら綿密かつ手堅い検証を行っていることを評価したい。こうした論述の過程から、現実的な広域連合の可能性を論じている。かかる手法は、青木氏が実際に関西広域連合の分野事務局(広域防災局)の実務担当者として広域連合の運営に携わっていたことと関わっている。現場レベルでの問題意識を、資金のフローや権限のあり方と関連付けながら実証・論述している点は説得力がある。

 なお、本論文に言及された関西広域連合と道州制との比較等は、あくまで青木氏の仮説の域を出ない論述であり説得力にやや課題が残る点は指摘しておきたい。また、欧州における都市間連携モデルをベースに論じているが、今後、新たな地域政策への展開を切り拓く視点や論述にも期待したいところである。

本論文は地方自治研究においてきわめて卓越したものであり、かかる領域の進歩に大きく貢献していることは論を待たない。日本地方自治学会賞(論文賞)に値するものと評価する。