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論文部門

 

1.受賞者  林 昌彦(兵庫県立大学)

 

2.受賞論文 「地域活性化政策の再構築」

(日本地方自治研究学会誌『地方自治研究』Vol.29  No.120145月)

3.授賞理由

今日、地域活性化が政策課題として重視され、全国各地で取り組みが行われているが、成功した事例は限られている。筆者は、本質的な問題の所在を政府等における政策の劣化、すなわち政策の質の低下にあると考え、政策の質の問題を政策の合理性の問題として考察する。筆者によれば、政策の合理性は一般に、稀少資源の効率的配分に関わる目的合理性を意味するが、政策の実効性を担保するには、政策過程において他人の支持ないし容認を調達できるか否かに関わる政治的合理性も重要であると指摘する。そして政策デザインは目的合理性と政治的合理性の両面から政策課題をめぐるコンテクストを理解するとともに、実現すべき価値を明確化し、そのコンセプトを具体化することが重要であると述べる。地域活性化政策において実現すべき価値およびコンセプトとして筆者は、地域の持続可能性を提唱し、その概念的・政策的な含意の検討を行っている。

次いで筆者は、戦後わが国の地域政策の経緯に言及し、それが国の強い主導により展開され、国土政策の性格を強く持っていたことを指摘する。この性格がとりわけ色濃く現れるのは、国土総合開発法に拠る全国総合開発計画の第3次計画(いわゆる三全総)までであり、五全総においては国の主導性の限界が明らかになり、2005年には根拠法である国土総合開発法自体が抜本改正された。新たに制定された国土形成計画法の下で2008年に策定された国土形成計画においては「持続可能な地域の形成」が打ち出されている。すなわち、地域の持続可能性は、地域政策の経緯に照らしても現実妥当性のある、地域活性化政策において実現すべき価値であることが示唆される。

最後に筆者は、地域政策の変遷に伴って政策主体が変化し、国主導から、自治体あるいは地域住民、NPOなどの多様なアクターによる取り組みが想定されるようになったとして、自治体の地域政策(自治体政策)を検討する。自治体政策に対しては無計画性や総合性の欠如といった批判があるが、筆者はその原因を計画策定や政策調整の仕組みが機能していない点にあると指摘し、その弊害が端的に現れる総合計画について考察する。総合計画が、インクリメンタリズムを超えた、行政事業間の「順位づけ」を徹底した真の意味の総合計画になりきれないという問題の根底にあるのは、実現すべき価値相互間の対立調整としての政治機能(首長の政治的指導力)の弱さが政策過程にダイナミズムを与えていないことにあると述べる。その解決策として筆者は、事業別予算の導入を提唱する。「事業別予算の狙いは、単に事業毎に予算を表示することではなく、総合計画と予算と評価を事業の面から一つのシステムに統合すること」にあるからであり、「予算は評価と政治的判断の総合的産物であり、この過程の透明性を高めることが、政策の質を高めることにつながると考えられる」(10頁)からである。

本論文は、綿密な文献レビューに基づいて、地域政策の現状への批判的な検討を行い、その本質的な問題の所在を明らかにし、高踏的な現状批判の罠に陥ることなく、具体的な政策提言を説得的に提示することに成功しており、良質で優れた研究成果であると評価できる。