著作部門

 

1.受賞者  梅 村 仁(高知短期大学)

 

2.受賞著作 『都市型産業集積と自治体産業政策―総合的な都市産業政策の構築に向けて―

(高知短期大学社会科学会・高知短期大学研究叢書1、2013年4月刊行)

 

3.受賞理由

 産業集積については、北イタリアや米国のシリコンバレーといった海外の事例がしばしば取り上げられてきたが、日本国内においても多数の産業集積地が存在する。とりわけ、東京都大田区や大阪府東大阪市の事例はよく知られている。

 産業集積は多様なパターンで存在する。『中小企業白書(2000年版)』によれば、産業集積は、産地型集積、企業城下町型集積、都市型集積、進出工場型集積、広域ネットワーク型集積、産学連携・支援施設型集積の6類型に分類されるが、本研究においてはその中から都市型産業集積が取り上げられる。都市型産業集積とは、大都市圏にあって多様な中小企業が高度に集積した産業集積のことであり、東京都大田区や大阪府東大阪市がその代表例である。

 本研究の分析の焦点は、都市型産業集積の形成・維持と自治体の産業政策との関係に置かれ、尼崎市を焦点都市に据えて、東京都大田区および大阪府東大阪市との綿密な比較調査分析を行っている。その調査・分析結果に基づいて、従来型の産業政策である創業・起業支援(ビジネス・インキュベータ)、金融支援(地域ファンド)、外部資源の導入(企業誘致)がいずれも、産業集積の形成・維持に有効ではなかったという問題点を指摘している。最後に、従来の産業政策の手法を超えて、土地利用計画手法、地区政策、環境政策、学習政策といった都市政策の手法を取り入れた、より新しく総合的な都市産業政策のあり方を提言している。

 このように本研究は、産業集積に注目し、綿密な調査分析を積み重ね、実証結果に基づいて、産業集積の形成・維持に有効な新らたな地域政策を提言することに成功しており、優れた政策研究であると評価できる。

 

論文部門

 

1.受賞者  小 川 長(尾道市立大学)

 

2.受賞論文 「地域活性化とは何か―地域活性化の二面性―」

              (日本地方自治研究学会誌『地方自治研究』Vol.28  No.12013年3月)

 

3.受賞理由

 本論文における筆者の問題意識は、近年、地域政策において広く使用されるようになってきた「地域活性化」という用語の持つ多義性や曖昧性による意味の混乱、それによって政策の実効性を担保できなくなるという弊害、を回避するにはどうすればいいのかという点にある。この研究課題に答えるために筆者は、先行研究の文献レビュー、「日経テレコン21」を用いた記事検索、「全国総合開発計画(全総)」と「国土形成計画(全国計画)」のテキストマイニング、尾道市におけるアンケート調査といった多様な調査・分析方法を複合的に組み合わせ、「地域活性化」という用語が1980年代初めから使用され始めたことを確認するとともに、副題にある「地域活性化の二面性」、すなわち、「地域活性化」の概念を「経済的効果」と「社会的効果」の2次元に分解できることを説得的に示している。最後に筆者は、「地域活性化」という用語を地域政策で使用する場合には、「経済的効果」と「社会的効果」のいずれを指示しているのかを明確に表現すべきことを提言している。

 本論文はこのように地域政策への積極的な提言を目指したものであるが、「地域活性化」は、地方自治研究、地域研究の分野においてもしばしば言及されるようになってきている。したがって本論文は、概念レンズとしての「地域活性化」についてその「分解能」を高めたという意味において、アカデミックな貢献をも成し遂げた優れた研究業績であると評価できる。