著作部門

 

1.受賞者  初 谷  勇(大阪商業大学)

 

2.受賞著作 『公共マネジメントとNPO政策』(ぎょうせい、2012年3月刊行)

 

3.受賞理由

 著者は、公共マネジメントを“より良い公共性の実現を求めて、官民各セクターに属するさまざまな活動主体(個人、団体、法人等)が、政策や施策・事業を連携し協働する営みの総称”と捉える。そしてまず、組織/領域・空間レベルとマネジメント/ガバナンス・アプローチなる概念軸をタテヨコに配して、公共マネジメントおよび近縁領域の問題を全9類型に分類した。このような視点を基調として整理の論理を組み込み、引き続く各論点で常に振り返り、参照可能としつつ、実際のNPO政策の詳論に踏み込むスタイルの本論構成としている。

 また、著者がここで議論の対象とするNPO活動は、いわゆるNPO法人のそれに限定されるものではない。むしろもっと広範囲の、制度的、社会的、経済的に想定しうるあらゆる活動主体に内在する活動可能性が問題にされている。そしてこれら非常に多数の要素をよりよくまとめ、好ましい政策選択を獲得するその分析プロセスを高度に精選するために筆者は、基底的および派生的なる分類基準を用いている。

 すなわち、基底的NPO政策とはNPOそのものが公共的問題とされている場合であり、また、派生的NPO政策はNPOが何らかの基底的政策の実現を図るための派生的な対象とされている場合である。序章と終章を除く全8章をこれらの政策論議で尽くし、前者(第1部 公共マネジメンと基底的NPO政策)、後者(第2部 公共マネジメントと派生的NPO政策)共に4章ずつを割り振っている。特に後者では、前者の議論を受けて、ローカル・ガバナンス(地域共治)にも多くの紙面を割いており、今後の地方自治のあり方について大変示唆的である。

 本書は、先進的なテーマを良く、精緻に分析している。論理の枠組みが堅固で、かつ際立って体系化されている点、特徴がある。また、包括的であり、かつ具体的(事例および図版豊富)である。あるべき政策展開への議論のステップも自然であり、受け入れられる。本領域でのリーダーシップをとるに相応しい研究であり、今後の研究の進展に貢献するところが大きい。よって、日本地方自治研究学会賞の授与に値する。

 

 

論文部門

 

1.受賞者  畑  正 夫(兵庫県立大学)

 

2.受賞論文 「NPOの立地行動にみるソーシャル・イノベーションの空間的普及過程の分析 ―兵庫県を例に―」

              (日本地方自治研究学会誌『地方自治研究』Vol.27  No.12012年3月)

 

3.受賞理由

 今やNPOは、「新しい公共」を担う機軸のひとつとして重要な地位を占め、その活動がこれからの地域社会にとって不可欠なのは言うまでもない。よって、そのNPOの展開の促進要因および阻害要因を、立地対象の地域に即して良好に把握できれば、今後の地域政策の策定の上で役に立ち、効果的である。本論文はまさに、そのような、政策論からのアプローチを進める思考の基盤となる、NPOの空間的普及過程に関する基礎的分析を内容としている。

 本論文では、NPO現象をソーシャル・イノベーションとしての社会的企業の萌芽として捉える。そして、それがどのように空間的に普及していくかを明らかにすることがコミュニティの再生を図る上で重要なエビデンスであるにもかかわらず、従来、十分な議論がなされて来なかった点を問題にする。および、革新(イノベーション)の一般的な拡散現象の関連並びに地理的普及過程の諸研究成果を参考としつつ、兵庫県をケースに自製のデータベースを用いてNPO法人の認証数の経時的および空間的な広がり具合の分析を行なっている。また、数件の法人理事長インタビューにより、ミクロな視点からの問題点も抽出した。これらは、例えば、距離対NPO数のXY平面図上で滑らかな曲線をゆがめる凹凸現象の原因をよく説明するなど、比較的マクロなデータ分析を補完している。

 NPOの空間的普及のパターンはランダムなものではなく、集積傾向を示す。および、時期的に3段階があること。階層効果、近隣効果といった、革新の普及に特有の現象がここで確認されている。また、例えば、時間対NPO数のXY図はここでもS字曲線となったが、それのはじめ(第1段階:制度導入直後)は阻害要因がつよく働き、次の急成長期(第2段階)は促進要因の方がよりつよく働いた結果と見れば、これらの段階毎のNPO政策を必要とするのは自明である。

 本論文は、問題の所在への着眼に秀で、優れた分析アイデアをもって未踏の分野開拓の意欲に満ちている。NPO政策に関する問題解決において有効な知的基盤となりうる成果を得て、今後、この領域での研究と実践の場で寄与するものが大きいと思量される。