著作部門

 

1.受賞者  亀 井 孝 (南山大学)

 

2.受賞著作 『公会計改革論 ――ドイツ公会計研究と資金理論的公会計の構築――』

                (白桃書房、2004年3月刊行)

 

3.受賞理由

 公会計ないし政府会計への認識は、近年、国および地方自治体関係者の間で着実に深まり、学会においても関心が高まっている。著者の研究は、著作の副題に示されているように、ドイツ公会計の研究を通じて提唱されている資金理論的公会計論の構築を目指すものである。著者の思考プロセスは、ドイツ公会計研究から、そこで採られている会計概念の本質を抽出し、いかなる概念形成が必要なのか、またその形成自体が可能なのかの検討を通じて理念型を描き、それに基づいて新しい公会計制度をめぐって提唱されている様々なモデルを検討するというものである。

 その理念型こそ、貸借対照表、経常計算書、および資金計算書の3種類の計算書をすべて複式簿記から導き出す「計算書の3本化」である。特に注目すべきことは、資金計算書を含めた3つの計算書が、勘定面に工夫を施された複式簿記システムから導き出されるように考案されている点である。その意味で、記録計算構造により資金理論的公会計論が確実に支えられている。また著者が提起する資金観は、公会計への企業会計方式の導入という議論を超えて、パラダイム変革を提起するものである。わが国における公会計制度改革について、著者は早急なプラグマティズムから距離をおき、公会計の特質を考慮した論理的な計算構造論に立つ概念形成と制度設計の必要性を主張している。

 以上のことから、著者の研究は、ドイツにおける公会計の研究のみならず日本の国および地方自治体の公会計の在り方を論理的に究明した基礎研究としてもきわめて完成度の高い水準にあると評価できるものである。

 

 

論文部門

 

1.受賞者  橋 本 行 (京都女子大学)

 

2.受賞論文 「行政評価の導入と内部者主導改革の可能性」

(日本地方自治研究学会誌『地方自治研究』Vol.19 No.2、2004年8月)

 

3.受賞理由

 本論文は、わが国地方自治体の施策や事務事業について、内部評価をともなう行政評価に際して、(1)いかなるプレーヤーが自治体の政策形成において主体的役割を担うのか、(2)(内部評価による)行政評価の行財政改革に対する実効性を自治体職員に対するアンケートと聴取調査によって明らかにする、(3)行政評価と行政内部者の政策形成能力との関係、の3つの視座より論究したものである。

 以上の観点から分析した結果、現状における行政評価の実効性について低い評価が見られるとの理解から、筆者はその具体的理由を次の5点に求めている。すなわち、(1)行動をともなわない行政評価と実際の行動が要求される政策判断との相違、(2)行政評価を担当する専担組織についての組織縦割の慣行、(3)内部評価にともなう行政評価の限界、(4)行政評価に対する職員のインセンティブの未整備、(5)政策部門と執行部門の視点の乖離、である。

 行政評価の研究について、これまで欠落していた「効果」の具体的認識と把握の方法について、組織構造、行政思想、行動様式等に関する自治体内部の特殊状況の考察を通して筆者の見解を提起するなど、本論文は今後この領域での研究と実践の場において寄与するものが大きいと思料されるものである。