著作部門

 

1.氏  名 山田光矢(日本大学法学部)

2.著作表題 『パリッシュ―イングランドの地域自治組織(準自治体)の歴史と実態−』(北樹出版、2004年2月刊行)

3.受賞理由

 近年のわが国における地方自治制度改革は、スケール・メリットを重視した広域化を指向している。その一例が市町村合併あるいは広域市町村圏をモデルにした都市行政の必要、さらには府県制度に代わる道州制への移行といった一連の広域規模論議である。しかし、こうした広域スケールの自治行政の欠点を補うべく、イギリスに見られるパリッシュ(教区)のような日常生活圏行政の主体としての地方公共団体を設定する必要も考えられる。しかし、パリッシュについてわが国では若干の著作を除けば、詳細な研究はほとんどなされてきていない状況にある。

 著者のパリッシュ研究は、わが国の「自治体国際化協会ロンドン事務所」での現地調査研究への参加によって、パリッシュの歴史と実態の両面から地方自治組織を、特にパリッシュとコミュニティの沿革および関連の把握、さらにローカル・カウンシルの研究としてロンドン郊外のイースト・グリンスティッド・カウンシル、リングメア・ヴィレッジ・カウンシルの実態調査を踏まえてパリッシュの運営内容を分析している。その結果明らかにされたことは、基礎的自治体の広域化は地域政府と住民との距離を拡大し、本来基礎的自治体に求められている草の根民主主義の役割を弱めるということ、それゆえ住民の意思を吸収するシステムとして、地域自治組織が大きな意義を持つことになる、ということである。この点について、パリッシュの位置づけや権能などの法的枠組みや実態を中心に、パリッシュの全国連合協議会や地域連合協議会の役割が論究されている。その成果は、スケール・メリットを指向する今日のわが国の地方行政のあり方に警鐘を鳴らしている。

 以上のことから、本研究はわが国の地方自治行政の改革に際して有益である。

 

論文部門

 

1.氏  名 山本 清(国立学校財務センター)

2.論文表題 「住民選好と自治体経営」

       (日本地方自治研究学会誌『地方自治研究』第19巻第1号、20043月)

3.受賞理由

       本論文は、地方自治体におけるNPMNew Public Management)手法による行政の効率化や質の向上を、住民に関する意識調査とくに住民選好の観点から把握し、(1)現行の調査でどの程度バイアスが生じているのか、(2)住民間の行政サービス選好は果たして異なるのか、もし異なるなら、いかなる要素が差異をもたらしているのか、(3)合意形成および住民との協働やネットワーク型の経営を可能にする要件は何か、について論究したものである。

       論究は、主として海外の研究者による先行研究を精査した後、著者自身の意識調査の結果から自治体経営政策への住民の選好、個別の行政サービスの選好、そして住民との協働型の行政経営における参加意識と市政への支持について分析を進めている。

       以上のような研究から、著者は次の3点を指摘する。第1に住民選好を一般的な満足度調査で把握し、そのまま政策立案や評価に適用することは危険であること、第2に世代間で選好が異なること、第3に住民との協働や合意形成を可能にするには、地域活動への参加を促したり、専門的助言を活用することが有効になりうること、である。こうした精緻な実証的分析調査研究は、少なくとも地方自治体研究としてはわが国ではこれまで十分になされておらず、本論文はNPM手法の主要原理の1つである顧客指向実践についてより有効な政策研究へと寄与するものである。