家族信託をもちいた財産の管理・承継
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第1章 家族信託における法律48託財産と相続財産との関係が問題となる。この点、信託の設定が遺言によって行われる場合(信託法2条2項2号、同法3条2号)と信託契約によって行われる場合(同法2条2項1号、同法3条1号)とを区別して考えることが妥当である。(1) 遺言による信託相続では、被相続人が有していたすべての財産が相続の対象になるのに対し、信託では、委託者が選択した財産が信託行為の対象となる。その結果、遺言による信託では、相続財産と信託財産は重なり合うことになる。つまり、被相続人の相続開始時の財産(相続財産)のうち、その全部または一部が遺言により信託財産とされることになる。もっとも、前述のとおり、信託では、信託財産を構成するのは積極財産に限られ、消極財産である債務は含まれない。したがって、仮に、遺言による信託によって被相続人の全財産に信託を設定した場合でも、信託財産は相続財産のうちの積極財産だけということになり、被相続人に消極財産があるときには、信託財産と相続財産の範囲は異なってくる。なお、委託者の従前の債務を信託に組み込むには、信託行為により委託者の従前の債務を信託財産責任負担債務とする旨を定めると共に(同法21条1項3号)、受託者が民法の原則に基づき債務引受けを行うことが必要となる。(2) 信託契約次に、信託契約により信託を設定した場合を検討する。例えば、被相続人Aが、生前、委託者として受託者Bとの間で信託契約を設定し、当初は被相続人A自身が受益者となる(自益信託)。そして、被相続人A(委託者兼当初受益者)が死亡した際には、被相続人Aの受益権は消滅し、相続人Cが新たに受益権を取得するという内容の信託契約を前提に検討を行う。このような信託契約において、被相続人Aが信託契約の対象とした財産(信託財産)は相続財産と考えるべきかが問題となる。

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