親権・監護権をめぐる法律と実務
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104福祉に反することが明白であること(いわゆる「明白性の要件」)が必要であるとしています。  そして、この「明白性の要件」を具体的に充たす場合として、最高裁平成6年4月26日判決(民集48-3-992)では、 ① 他方の配偶者の親権の行使が家事審判規則52条の2(現・家事事件手続法157条1項3号)の審判前の保全処分等により実質上制限されているのに、配偶者がこれに従わない場合 ② 幼児が、一方の配偶者の監護の下で安定した生活を送ることができるのに、他方の配偶者の監護の下に置いては著しくその健康が損なわれ、もしくは満足な義務教育を受けることができないなど、他方の配偶者の幼児に対する処遇が親権の行使という観点からも容認することができないような例外的な場合 が挙げられています。別居中の夫婦間で子どもの引渡しが争われている場合に、家庭裁判所の審判手続ではなく人身保護請求手続によって引渡し請求が認められるのは非常に限定された場合といえるわけです。 なお、その後の裁判例として、  ⅰ 離婚調停中に調停委員からの勧めのもと、合意によって一時的に夫に子どもを預けたところ、夫が合意に反して子どもを返さなかった(住民票まで移転させた)事案で、妻からの人身保護請求を認めたもの(最判平6.7.8判時1507-124)  ⅱ 離婚調停中に調停委員の勧めのもと、合意によって面接交渉を実施している最中に、夫が子どもを強引に連れ去った事案で、妻からの人身保護請求を認めたもの(最判平11.4.26判タ1004-107) があります。これらⅰⅱの判例の事案は、前掲最高裁平成6年4月26日判決で挙げられた「明白性の要件」の具体的内容とは形式上合致していません。  しかし、上記ⅰⅱの事例は、いずれも調停手続において調停委員会

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