親権・監護権をめぐる法律と実務
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102家庭裁判所の判断に委ねる方が適切なことが多いでしょう。 この点、従前から、子どもの引渡しを求める法的手続として、地方裁判所又は高等裁判所に人身保護請求を申し立てる方法も用いられてきました。この人身保護請求手続は、もともと国家など公権力の不当な行使によって身体を拘束されている被害者(被拘束者)を救済することを予定して定められたものです。このような手続が、本来、予定していなかった、全く様相を異にする子どもの引渡しを実現するための手続として用いられるようになったのは、子どもの引渡しを求める法的手続として、迅速で、かつ実効的な手段が存在しなかったためだと言われています。 しかし、前述したとおり、子どもの引渡しが争われる事案では、争っている当事者のどちらの下で子どもが養育・監護されるのが「子の利益・福祉」に合致するのか、という視点が不可欠となります。この点、人身保護請求手続の審理は、地方裁判所や高等裁判所という一般民事事件を取り扱う裁判所で行われるため、「子の利益・福祉」という視点に対する配慮としては、限界があると言わざるを得ません。やはり、子どもの引渡しの問題は、本来的には家庭裁判所の守備範囲とされるべきであって、「子の利益・福祉」について十分な調査能力をもつ家庭裁判所に判断を委ねるべきでしょう。加えて、家事事件手続法において「審判前の保全処分」という迅速な手続が整備されているので、家庭裁判所の手続も迅速な手段として十分対応できるものになっています(最判平5.10.19民集47-8-5099判時1477-21可部裁判官補足意見参照)。 そこで、子どもの引渡し請求の法的手続としては、基本的に家庭裁判所における審判ないし調停手続で解決されることが望ましく、家庭裁判所が専門力・調査能力を発揮することにより、子の利益・福祉に合致した結論も得られるものと考えます。そして、人身保護請求手続は、例外的かつ補充的な救済方法と位置づけることが、後述する判例の趣旨に合致するものと思われます。

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