架空循環取引
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34—第1編 循環取引の理論的考察能力を企業が有していないこと第2節で見たような過去の循環取引の事例で、実際に現物が存在し、モノが物理的に全く移動せず、伝票処理だけで取引が成立するケースがあったが、それはまさに請求済未出荷契約に該当するものの、上記(a)ないし(d)のような厳格な要件を満たししてないものがほとんどであった。したがって、この点からも、新会計基準導入後は、循環取引の発生が相当制限されると期待することができる。(3)重要性等に関する代替的な取扱い① 一時点で充足される履行義務(出荷基準の取扱い)ASBJは、基本的な方針として、財務諸表間の比較可能性の観点から、IFRS第15号と整合的であることを出発点とし、基準開発をしてきた。しかしながら、これまでわが国で行われてきた実務等への配慮が必要な場合には、比較可能性を損なわせない範囲で代替的な取扱いを追加しており、その中の一つに「出荷基準」がある。上述したように、新会計基準では、一時点で充足される履行義務については、資産に対する支配を顧客に移転することで当該履行義務が充足されるときに収益を認識する(会計基準第39-40項)。そこで問題となるのが、わが国のこれまでの実務で幅広く用いられてきた出荷基準の取扱いである。出荷基準の功罪については、第3節で検討したところであるが、少なくとも、商品または製品を出荷した段階では当該商品または製品の支配が顧客に移転したとはいえないため、そのタイミングでは、企業は収益を認識することができない。しかしながら、このまま新会計基準が導入されたとしたら、従来出荷基準で収益認識してきた(非上場企業も含めた)わが国企業への影響が甚大であるため、ASBJは、商品または製品の出荷時から当該商品または製品の支配が顧客に移転するまでの期間が通常の期間である場合には、例外的に、出荷時における収益認識を認める代替的な取扱いを認めることとした(適用指針第98項および171項)。ここでいう、商品または製品の出荷時から当該商品または製品の支配が顧客に移転するまでの期間が通常の期間である場合とは、国内におけ

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