架空循環取引
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33第1章 循環取引発生のメカニズムと会計上の論点—第1節や第2節で見たように、循環取引の場合、関与した企業が「商社取引」や「介入取引」と称して安易に取引の輪の中に参加していった事実が窺われるが、本会計基準が適用されると、顧客に対する財またはサービスの提供において複数の当事者が関与する場合、果たして誰が本人で誰が代理人かを厳しく問われるため、簡単には取引の輪の中に入れなくなる。また取引の輪の中で、本人となり、財またはサービスの対価の総額を収益として計上しようとする場合、上記(a)ないし(c)の厳格な指標を充足しなければならない。第2節で見たような過去の循環取引の事例では、いずれにおいてもかかる3つの指標を満たしていたかどうかは極めて曖昧であった。したがって、本会計基準が導入され、厳格に適用されれば、循環取引の発生防止に極めて有効であるといえる。さらに言えば、仮に代理人と判定される場合に収益として認識されるのが、純額としてのいわゆるコミッション部分に限定されるので、元々薄いマージンしか想定されない循環取引にあっては、収益計上額のうまみも小さく、敢えて循環取引の輪の中に参加するというインセンティブも薄れてくるはずである。② 請求済未出荷契約(適用指針第77項から第79項)請求済未出荷契約とは、企業が商品または製品について顧客に対価を請求したが、将来において顧客に移転するまで企業が当該商品または製品の物理的占有を保持する契約である(適用指針第77項)。上記(1)で見たように、企業が収益を認識するためには、資産に対する支配を顧客に移転しなければならず、上記(1)の①ないし⑤の指標を考慮しなければならないが、出荷済未出荷契約の場合、さらに以下の要件を満たす必要がある(適用指針第79項)。(a) 請求済未出荷契約をした合理的な理由があること(例えば、顧客からの要望による当該契約の締結)(b) 当該商品または製品が、顧客に属するものとして区分して識別されていること(c) 当該商品または製品について、顧客に対して物理的に移転する準備が整っていること(d) 当該商品または製品を使用する能力あるいは他の顧客に振り向ける

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