架空循環取引
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31第1章 循環取引発生のメカニズムと会計上の論点—上記ステップの中で最も重要なのは、ステップ5であることは論を待たないが、企業は契約により約束した財またはサービス(以下、この文脈で「資産」という)を顧客に移転することによって履行義務を充足した時、または充足するにつれて収益を認識することになる。資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時、または獲得するにつれてである。ここでいう「資産に対する支配」とは、当該資産の使用を指図し、当該資産から残りの便益のほとんどすべてを享受する能力をいう。これには他の企業が当該資産の使用を指図して当該資産から便益を享受することを妨げる能力が含まれる。具体的に、資産に対する支配を顧客に移転した時点を決定するにあたり、次の5つの指標を考慮しなければならない。①企業が、顧客に提供した資産に対する対価を収受する現在の権利を有していること②顧客が資産に対する法的所有権を有していること③企業が資産の物理的占有を移転したこと④顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い、経済価値を享受していること⑤顧客が資産を検収したこと前節まで見てきた過去の架空循環取引の事例では、多くの場合、上記の指標を満たしていなかっただけでなく、そのような観点から取引を管理していなかったことが分かる。したがって、新会計基準導入により、それが厳格に適用されれば、循環取引の発生はかなりの確率で抑えられることが期待される。(2)特定の状況または取引における取扱い新会計基準では、特定の状況及び取引として11項目(適用指針第34項から第89項)をリストアップし、それらに対して適用される指針を定めている。以下では、当該11項目のうち、循環取引の発生と深くかかわる2つの項目について検討する。① 本人と代理人の区分(適用指針第39項から第47項)上述した収益認識のステップ2(契約における履行義務を識別する)において、

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