架空循環取引
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推薦の言葉 本書(旧版)が世に出たのは2011年、ちょうど東日本大震災による東京電力福島第一原発の事故が発生したころである。多くの国民に信じられていた「原発安全神話」が脆くも崩れ、また「内部統制の優等生」と誰もが信じていた東京電力の危機管理への信頼も崩れた。どんなに誠実にみえる企業でも、不祥事は避けられない、どんなにリスク管理に万全を期したとしても、「100%の安全」を実現することはできない、ということを国民が認識したころであった。 その後、オリンパス、東芝で発生した会計不正事件、電通で発生した労働事件、スルガ銀行で発生した不適切融資事件、そして数々の名門企業で発生した品質偽装事件など、いわゆる実業企業における不祥事が相次ぎ、日本企業全体の信用に疑問符がつくような事態に至っている。 これら実業企業の不祥事を鳥瞰すると、一つの共通点が見えてくる。それは「不祥事は、経営を取り巻く環境変化の中で生まれ、自社の不正要素だけでは完結しない」ということである。業績不振からの脱却を支援するコンサルタント会社や海外企業の存在、クライアントとの取引の変遷(紙媒体からデジタルベースの広告へ)、不正に融資を引き出す不動産会社の存在、製品出荷先からの納品プレッシャーや厳しいペナルティの存在など、不祥事は取引の経済的合理性に、なんらかの問題点が見え隠れするなかで発生するのである。そして、本書が取り上げる「架空循環取引」も、企業をとりまくステイクホルダーとの取引関係に法律、会計、税務の実務上の破たんが生じる点では同様である。 今でこそ、世間で知られるようになった「架空循環取引」であるが、本テーマを真正面から取り上げ、実務的課題に取り組む書籍は稀少である。おそらく日本における長年の取引慣行からみて「何が架空循環取引にあたるのか」その概念があいまいであり、また会計、法務、税務にまたがる極めて難解なテーマでもあり、さらに取引先を含め、その不正には多数の関係者が関与することで、早期発見も極めて難しいからである。本改訂版では、法律、会計、税務に精通

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