実務に対応する税務弁護の手引き
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8  序章 租税法の独自性(2) 所得税、法人税は、一定の期間(1年間)のもうけ(所得)に応じて支払うのであるが、国家としては、納税期限が到来する前に、税金分を前取りして確保しておきたい。そこで給与や報酬等の支払いの際に、支払者に源泉徴収という形で受給者の税金の前取りを求める。予定納税という制度も作る。 源泉徴収制度は、実体的な意味での所得者が適正に申告をしない場合の国家としてのリスクヘッジでもある。たとえば、報酬・料金等の支払いを受ける者が個人の場合の方が、それが法人の場合よりも、源泉徴収の対象となる範囲が広い(所法204等)。個人よりも法人の方が適正な納税申告を期待できるという前提がある。(3) 税金の計算は複雑だから、これを適切に行う専門家を国家資格として定めることも必要である。そこで税理士制度が設けられている。税理士に対しては納税者と国家との間の中立公正性を求め、国家の監督が及ぶようにする。すなわち、税理士は、脱税相談禁止義務(税理士法36)、帳簿作成義務(同法41)、使用人等に対する監督義務(同法41の2)、不正是正の助言義務(同法41の3)等を負うこととする。 なお、弁護士は当然税理士の事務を行うことができるとされている(弁護士法3②)。しかし、弁護士が税理士業務を行う場合には、税理士と同様の国家に対する義務を負わせなければならない。したがって、弁護士法の特別法として通知弁護士制度(税理士法51)を設け、弁護士が税理士業務を行う場合にも、税理士と同様の監督に服せしめる(大阪高裁平成24年3月8日判決・訟月59巻6号1733頁参照)。(4) 国民が適正に納税申告をしているかをチェックしなければならないから税務職員に税務調査権限を与える。 悪質な脱税については、国税犯則取締法を制定して国税職員に強制調査権限を与え、刑事事件として立件できるようにする。(5) また、税金を納めない納税者に対してはどうするか。私人間の債権回収では、債権の存在を裁判所の判決によって確定させ、裁判所を通じて強制執行を行うこととなる。しかし、迅速に確定、回収されるべき国税債権について、このような迂

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