実務に対応する税務弁護の手引き
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5人頭税のように国民全員同額の税を課すのは現実的ではないだろう。(2) 納税者に、「もうけ」があれば、租税を負担する能力(担税力)がありそうである。そこで、各人の「もうけ」(所得)に応じて負担してもらうことがよいという発想に至る。現代社会では会社(法人)もいろいろな経済活動をしているから、個人だけでなく、法人にも、もうけに応じて税負担を求める。 これが所得税と法人税(法人税は、法人所得税である)であるが、それでは、「もうけ」(所得)はどのように測定するか。これについてはすでに会計という便利な道具がある。会社は出資者に事業の状況や利益の程度を説明するために複式簿記に従って決算を行っている。この会計の利益という測定方法に基本的には依拠して、もうけ(所得)に課税する(所得課税)。 したがって、所得課税(特に法人税)を理解するには、会計の基本的な知識が不可欠である。弁護士にとって「税法は独特」であると見えるのは、そもそも弁護士が複式簿記をさほど理解していないからともいえる。  なお、会計は出資者に対して説明報告するためのものである。会社は出資者に対して業績をなるべく大きく報告するという動機があり、出資者はそれが適正であるのかを疑う。したがって、会計は、基本的には利益の計算に当たって謙抑的である。 一方で、税法の場合には、会社は国に対して業績をなるべく少なく報告する(税額負担を低額にする)という動機があり、国はそれを疑う。したがって、法人税法は、会計上の利益をそのまま所得とはせずに、一定の修正を加えている(法法22)。用語としても、会計は、収益、費用、利益という用語を用いるが、法人税法は、益金、損金、所得という言葉を用いる。会計上収益がなくても法人税法では益金とされることがあるし、同じく費用でも損金とならないこともある。したがって、会計上の利益と法人税法上の所得は完全には一致しない。法人税の申告書はこのような処理を書面上で行うこととしている。

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