建設業の経理№78
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1.社会保険労務士からみた社会保険未加入問題平成24年から始まった国土交通省による社会保険未加入対策が,最終目標年度まで残り数か月という段階にきている。弊所にも建設各社から問い合わせがあったが,この動きが始まった当初は,誰もが「本当に実施されるのか?」と半信半疑なところがあり,周りの様子をうかがっている感じであった。また,各社が動きだしてからも,社会保険未加入問題への取組みが当初なかなか進まなかった理由の1つに,「適切な保険」(17頁参照)というものが理解されていないということがあるのを痛感した。通常,保険関係の手続は社内の総務部門等が担当しているが,今回の社会保険未加入問題では,元請,一次会社も,調達部門等の保険加入には直接携わったことがない方が担当者となるため,保険の基本的な知識を理解するところからスタートせざるを得ない状況であった。そして2つ目の理由としては,作業員の中には社員として雇用する労働者と,同じ作業をしながら請負関係である者が混在しており,雇用と請負の区別が不明瞭であることがあげられる。雇用と請負の区分が明確でない以上,何が適切な保険かを判断することは難しく,保険加入手続が進まない要因となった。ただ,建設業は受注産業という特殊性から,「請負」という考え方が業界内の根底にあるため,請負人なのか?労働者なのか?というのは,いまだ,実態に即して判断しなくてはならない状況である。今回の社会保険未加入問題は,①技能労働者の処遇の向上,建設産業の持続的発展に必要な人材の確保②法定福利費を適正に負担する企業による公平で健全な競争環境の構築だけではなく,建設業の重層下請構造についても,同時に改善していかなくては全体の解決が難しいと感じられた。第2部社会保険労務士の視点から建設企業の取り組み事例と実務上の課題アスミル社会保険労務士事務所代表/特定社会保険労務士櫻井好美8建設業の経理Spring2017

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